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マウントデリシャスの日記です。


by mtdelicious
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趣味の話 その一                            ラブリ

そういう訳で、趣味の話を書こうと思う。
読書の話でもするか。

縦書きの原稿をコピペするので、多分違和感が出るかもしれない。
硬い感じが予想できる。
スマソ

読書が趣味といっても、そんなに多く読んでる訳でもないし、
読まない時には、何年も読まなかったりするいい加減なものだ。
自分の趣味は、全てがそうである。波がある。
最近また少し読んでいる時期が来たので、本について書いてみる。

何から書いていいか分からない。
まず、じゃあ好きな作家は誰でしょう。月並に。
最近の人では、井伏鱒二、太宰治、畑正憲、山本周五郎、山田詠美、など。
これらは昭和に活躍した人々で、自分の好みとしては珍しい。

自分は、大正期に活躍した作家が好きなのである。
しかし、この時代の作家の話をするのは、ちょっと、無造作には
書き続けられるものではないから、自分が持ってる話の色々も、
もうちょっとましなものに形付いてきたら、この話はしようと思う。

そこで、では、ここでは何の話をしようか。
文学の夜話は本当に長くなる、この回も書き終わって最後に読み返して
結局2000字余り削減した。盛り込みたいシーンはまだ沢山あるんだが、
しかし長さというものを考えて断念する。残念。
今回は、最近の文学に関する、驚きの話を書こう。
 
自分は、中学生の時分、前葉に挙げた井伏、太宰が好きだった。
二人のユーモアセンスが好きだった。
二人は師弟子の間柄である。
太宰の「富嶽百景」では、太宰が、師の執筆の常宿に
している御坂峠の茶屋を訪れる場面があるが、
そこへ一度行ってみたいとものだとかつて思っていたものだった。

すると、二十数年経った今になって、これがリハーサルスタジオから
程遠くない事を知って、何かギョッとした驚きがあった。
彼にしては珍しく爽やかな気持ちで過ごしたであろう御坂峠。
何か気持ちのいい感じがする。
山梨に所縁のある作家は本当に多い。
こんなもんじゃない心底からギョッとした驚きが、
他にも色々あったが、今回は割愛。
 
太宰と言ったらこんな事があった。
大きなライブの打ち上げに、とある人が参加していた。
彼は大物のミュージシャンらしかったが、自分はその名を知らなかった。
木暮さんと同じ位の世代の方かと思う。
私は、たまたま、彼の隣の席に居合わせた。
彼は、細面の鼻が高い、美しい顔立ちで、陰のある表情は、
一見してまさにどこかで見た顔立ちだった。
長い髪にも、不思議な品があった。
自分は、ここのこんな場で、こんな事を言っても…
と躊躇したが、あまりにも似てるから、つい、つい。話し掛けた。

「だ、だ、……太宰、治に、似ていると言われませんか??」
カーーーー!何を言っているんだおのれは……と思いながら、
自分は相手をチラ見した。
すると彼は、テエブルに肘をつきつつ私の方へ半身をひねり、
私の目を見るとこう言った。
「銀座のカッフェ。」
私は驚いた。
銀座のカフェで撮られた写真は、とても有名な写真で、
よく文庫の中開きなどに載っているので記憶のある人も多いと思う。
自分はその機転の速い浪漫ある芸当に、相当驚かされた。
この話はここがヤマじゃないです。

俺は、太宰の大っファンなんだ!と彼は言った。
私は、とりあえず、「なんだこの子」系の反応でなくて
ホントよかった、と肩の荷が下りた。
彼は嬉しそうな顔をして話したが、やはりその表情には
どこか陰が抜けず、自分は、生きていたら太宰はこんな感じだろう、
と、話しながらもつくづくと彼の横顔を見て相づちを打っていた。
彼は、俺、玉川上水の近くに住んでるんだ。と言うので、
やはり、太宰が好きだからですか…?と聞いた。
かなり先輩にあたる人なので、なにかビクついてしまう。
「まさか!たまたまだよ。」

私たちは、しばらくとんとんと話していた。
どの作が好きか、といった話もしたかと思うが、私は中学以来読んで
ないので忘れてしまい、あまりはっきり答えられなかったと思った。
御坂峠の話なんかも確かしたと思う。

そして、何の話の繋がりかははっきり覚えていないが、
彼はもうかなり出来上がっていて、だんだん
支離滅裂な感じになってきた。
そして私に、また会えたらいいねえ、というような事を口走り、
私の目をじっと見ると、唐突に
「おれと、死んでくれないか。」
と言った。

私はハッと息を呑んで、相手の陰のある頬の辺りを見た。
「おれと、」
深く鋭い眼光は、闇を射抜くように私を凝視して居る。

「死んで呉れないか。」

私は、ああ、と目をつむった。
こうだったんだろう、太宰と死んだ女は。


太宰に瓜二つの顔が放ったセリフは、時代を倒錯する程の
迫真の演技で、容易にこちらに軽返事をさせるものではなく、
況や諧謔を弄す隙を微塵も与えず、私には二の句が無かった。
それに、この現代において、俺と、死んでくれるか、
という直球の表現は、今だかつて見聞きした事の無い
強烈さで自分に響いた。

それでして自分がやっと答えたのは、こういった間の抜けたものだった。

「ああ…、あの、…今、太宰に心中を持ちかけられた女の気持ちが、
ようく分かりましたよ…。ハハ、こういう感じですね、うん、と
言ってしまいますでしょうね、ハハ。」

相手は、え、そう?ハハハ、そう?と割と嬉しそうに言って、
また出来上がった顔に戻った。
実際自分は、うん、という言葉が喉の此処まで出かかった。 
そして、しばらくすると彼は酔い過ぎたか、友と従い帰っていった。

しかし、自分にはいつまでも消えない。
あの、太宰治に死のうと言われた瞬間を。
多分、この先、いつまでも覚えているだろう貴重な思い出になってしまった。

こういう経験は滅多にないだろうと思われる。
是非、またいつかもう一度会ったら頼んでみたい。
違う何かセリフも言ってみてください。みたいな。ハハー。
こんな話でいいんだろうか、趣味の話が。
とりあえず、太宰編。
閑話休題。


       2007・1.20.AM1:30
by mtdelicious | 2007-01-20 01:50 | ラブリーレイナ